戸板咲紀さんへのインタビュー全文
人と人が出会い、そしてつながる場所
大学への進学をきっかけに東京に引っ越し、一人暮らしをしていた戸板さん。大学4年生の時に休学して地元ひたちなか市に戻り、学業と並行しながら、人と人、人と地域をつなぐプラットフォーム(SETTEN)を立ち上げるなど、地域のコミュニティづくりを行っています。これまでの活動や地元への想いをお聞きしました。
戸板 咲紀(といた さき) 2000年生まれ。ひたちなか市出身。大学で専門的にロシア語を学ぶため上京。コロナの影響で2021年4月に地元に戻ることを決意。現在は阿字ヶ浦のイバフォルニア・プロジェクトや茨城に関わるきっかけを作るプロジェクト「SETTEN」を進めている。
『地元との関わり』に興味がありUターン
都内の大学在学中にひたちなか市に戻った経緯を教えてください。
直接的な理由は、コロナの影響により大学がリモート授業になったこと、そして、予定していた半年間のロシア留学に行けなくなったことです。2021年2月から半年間の留学を予定していましたが、私自身、感染するのがちょっと怖かったり不安だったりしたところもありましたし、家族も私を心配している状況の中で留学することは私にとってベストな選択ではないと考えて断念しました。
ロシアに関することについて、日本でできることはこれまでやってきたつもりだったので、これ以上のことをやるなら「もう現地に行くしかない」と思っていました。いきなり留学に行けなくなったことで、自分の中のこれからの計画や、気持ちの整理がつかなくて。それでいったん時間の猶予が必要だと思って休学し、以前からもうひとつ興味があった『地元に関わる』ということをやってみようかなと思って帰ってきました。
具体的な「地元への関わり方」は決まっていましたか?
「帰ってからどんなことをやりたいか」とは特になくて、それに、自分の持っているスキルで役に立てることがあるかも分かっていませんでした。漠然とした感じで「やれることがないか」を考えていて調べ始めたんですけど、調べても地元に関する情報がなかなか出てこなくて。「何か特定のことに取り組みたかった」っていうよりは、「なにかを探すためにいろいろ苦労した時期があったな」っていう印象が強いです。その中で、時間をかけて、ようやくイバフォルニア・プロジェクトを見つけて関わらせてもらうようになりました。
地域での活動から広がった「選択肢の幅」
コミュニティ・マネージャーはどのような役割ですか?
今はイバフォルニア・ベース(以下「ベース」)のコミュニティ・マネージャーとして地元に関わっています。「これができればコミュニティ・マネージャーと言える」という定義はないのですが、観葉植物に水をあげたり、掃除をしたりもします。ここに来た人に「こんにちは」と挨拶するところから、「あれがいいですよ」とか地元のことを案内したり、施設の使い方の説明をしたり、レンタサイクルを貸したりするところまで、ベースに関することをなんでもやる人みたいな感じです(笑)。
現在、取り組んでいるSETTENについて教えてください。
SETTENは、住む場所、働く場所、休日に過ごす場所を考える時に、「茨城もありかも」と感じてもらえるきっかけを作りたいという想いで活動しているプロジェクトで、活動内容は大きく二つに分かれています。一つはnoteやSNSを中心としたメディアの運営、もう一つは、直接人と人が出会えるような「場」の企画運営です。
戻って活動してきた感想はどうですか?
想像していたほど、地元や地方で働くということは簡単なことではなかったというのが正直な感想です。来年からは千葉県の民間企業で働くことにしています。でも、結果的に、ここで働くことや暮らすことを今は選ばなかっただけで、私はいつかにとっておこうって思うタイプなので、それはそれでよかったかなと思っています。
今、たくさんの人脈を持てたこととか、今ではなくても「いつか帰ってくればいい」っていう心の余裕を持てたこととか、そういうところは自分にとってすごくプラスだったことだと思っています。そういう「選択肢の幅」の広さを知れたのは、私にとって新発見でした。東京でずっとひとり暮らしをしていたら、知らなかったこと、できなかったことだったと思います。それに、希望が見えたような感覚もありました。そういった面を多くの人に知ってもらいたいと思っています。SETTENの活動でもそうしたことを伝えていきたいですね。
「ワクワク」が行動の原動力
行動力がすごいですね!
私のワクワクは時と場合によっていろいろではあるんですけど、二つあるかなと思っています。「私が何でもできるな」って思えるだけの豊富な選択肢を持っていることが一つ目のワクワクです。先のことが決められていると、楽しくなくなることがあるんですよね。でも、自分の気持ち次第で「どうとでもやれる」、「どうとでも変えられる」って思うと、すごく気が楽になったり、楽しそうって思えたりするので、そこがまず一つのワクワクだなと思っています。
もう一つは「自分が誰かのためになっている」、「他者貢献できている」っていうところかなと思っています。私もSETTENなどの活動をしていますが、一番上に立つのがそんなに好きではないんです。
「自分がやりたいんだ」と自分の意志を貫ける人は、もちろんいると思いますが、私は「誰かのために」だったらやれるタイプかなって思っています。例えば、イベントをやった後の「初めてこういう人に会った」とか、「こういう人に会ってすごく楽しい、ワクワクした」とか、「茨城でいろいろな動きがあるなんて知らなかった」とか、そういう言葉をもらえたら嬉しいんです。周りの人に新しい気づきがあったり、楽しくなったりするように私が動けていたら、それが私のやりがいだと感じています。誰かのワクワクを生み出せることが、私のワクワクなのかも知れないなと思います。自分で楽しむよりは、誰かのために動くワクワクが行動の原動力につながっていると思っています。
活動から得られたものはありますか?
自分が楽しいことをやれている充実感があり、交友関係が広がったのはもちろんですが、最近は、「結局いろいろ全部自分のためになっていたな」って思います。「他人のため」っていうことは私にとって活動のモチベーションになっていると思いますが、やっぱりそればっかりだと「なんでやってるんだっけ」って思う時もあるなって感じていて。
今までの活動を振り返ったときに、結局、自分がどういうことをやりたいかとか、これやりたいと思っていたけど案外やりたくなかったとか、「やってみて分かること」が増えてきている気がしました。これまでの活動で、社会に出てからやることを学生時代に経験できてよかったと思います。
今後の働き方はどう考えていますか?
いつになるか分かりませんが、いつか茨城に戻ってきたいなっていう思いで県外に就職する部分もあります。今は「場所を選ばず働く」っていうのが一番イメージしやすい働き方で、ひたちなかも含め「茨城」っていう括りで帰ってこられたらいいなって思っています。
今まで仕事というよりは、茨城で知り合った人たちと一緒にワイワイしたり、プロジェクトで一緒に活動したりする部分がほとんどでした。うまくこのコミュニティを生かして、友達と働くみたいな感覚で仕事ができたら楽しいかもしれないと思う時もあって。そういう今まで作ってきた繋がりを、「生かす」よりは「続けていく」みたいな感覚で、仕事に限らずプロジェクトもこの先も長く続くような関係になっていったらいいのかなと思います。
U-30が頼れる空間が必要
ひたちなか市の「住みやすさ」や「こうなって欲しい」と思うことを教えてください。
自然との距離が近くて気軽に海や山を訪れることができるのが気分転換にもなりますし、元々自然が好きなので、そういうところがすごくいいなって思っています。また、暮らしの質みたいなところを考えたときに、茨城にいたほうがいいなという思いがあります。
私は茨城やひたちなかの今の生活が好きだと感じているので、基本的には変わらなくていいかなと思っています。
ただ、私もそうだったように「茨城に帰ってきたい人の相談窓口」的なものが見えづらいし、あっても行きづらい雰囲気があるのではないかと感じています。高齢者の皆さんや海外に国籍がある皆さんが相談する空間や窓口があるように、地域に興味があって地元に帰ってきたいU-30(30歳以下)の若い世代の空間が茨城やひたちなか市に追加されればいいと考えています。
地元に帰りたいと思っている人はその権利を平等に与えられるべきだと感じる一方で、行政をはじめとする地元の人たちも、彼らが地域の情報をしっかりと得られる環境を整備するべきだと考えています。しかし、行政の皆さんも努力をしているにも関わらず、地元に帰りたい人たちに情報が十分に届いていないというのが現状です。そのすれ違いを解決するための空間が新しく生まれればいいなという思いで、私はSETTENの活動をしています。SETTENのように、茨城に帰りたい人・行ってみたい人がいつでも頼れるものが新しく生まれれば、茨城のその他の部分は変わらなくていいかなって。「上書き保存」して今ある良いものまで新しいものに置き換えてしまうよりは、新たな空間・機能を作って、その他の良い部分はそのまま別に取っておくという意味で「名前をつけて保存」するイメージが良いと思っています。(笑)
今後の活動や目標を教えてください。
SETTENのイベントが来月8月に迫っているので、そこに向けてお知らせや告知・集客をしっかり進めていきたいと思っています。また、やはり学生生活の最後なので、ちゃんと茨城を拠点にできる時間を大事にしたいですね。やりたい活動はいろいろあるんですが、休息や遊びなどのプライベートとのバランスはちゃんと取って、私自身が楽しくニコニコしていられる時間を増やしていきたいなと思います。
コミュニティの余白が人と人の出会いを広げる
最後に誰かの「ワクワク」を生み出すひたちなか市の資源(モノ・ヒト・コト)について教えてください。
今、市内でもこうしたコミュニティが少しずつ生まれ始めているのを強く感じています。ここイバフォルニア・ベースがメインにはなってくると思うのですが、那珂湊エリアでは「編湊(あみなと)」や、「みなとのおへそ」が最近始まっていますし、勝田駅では「cohako(コバコ)」がオープンしましたよね。目立つポイントは何個かでき始めたのかなと思っています。ベースにいると、「たまたま近くまで来たから寄ったよ」っていう人がいるのが印象的で、市役所の職員の方がふらっと来てくれるタイミングもあるんですよね。不特定多数の人が出たり入ったりすることができる場と、そのコミュニティがあるのは、ひたちなかならではと思います。あとはコミュニティももちろん大事なんですが、コミュニティの雰囲気というか質っていうか、気風というか。阿字ヶ浦の場合だと「ゆるさ」。「なんでもいいよ〜」「いつでもいいよ〜」みたいな(笑)。割とこう、ゆったりとした流れがあると思うんです。その余白に最初はびっくりしちゃう方もいるかもしれないんですけど、それだけの余白は私には東京では経験できなかったことです。このコミュニティと余白は大事だなと思います。
それに、ここに来ればちょうどいい距離感ですぐみんなが関わり始めて、誰かとつながる。この場で生まれた人と人の出会い(点)をきっかけに、ほかのコミュニティの人とも出会い(点)、点と点がつながって線になっていくことも面白いと感じています。そうした「ゆるさ」と「余白」がひたちなか市ならではの良さだと思います。
2022年7月11日 取材
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